FX取引においてサヤ取りは安全なトレードだとか、利益を取りやすいトレードだと言った表現を見受けますが果たしてそうなのでしょうか?
まずサヤ取りについてご存じない方の為にサヤ取りについて解説させていただきます。
サヤ取りのサヤは漢字で表記すると「鞘」となります。
よく投資で鞘を稼ぐ、鞘を抜くといった表現がありますが、要するに価格の差の一部を利益として取る手法を言います。
具体的に画像で見ていきましょう。
上記画像の上のチャートはAUD/JPY、オーストラリア円、下はNZD/JPY、ニュージーランド円になります。
オーストラリア円は上昇していますが、ニュージーランド円は下降していますよね。
画像にあるようにこの価格差を狙って利益を得ようとするのがサヤ取りなんです。
まず基本的なサヤについてご理解なさって下さい。
次にサヤ取りを行うにあたっての通貨ペアです。今回はオーストラリア円とニュージーランド円でご説明させていただきましたが通貨ペアは何でも良いのかというとそうではありません。
二つの通貨ペアを選ぶ際には相関性に着目しなければなりません。
下記画像をご覧ください。
画像引用:http://www.matsui.co.jp/market/fx/correlation/
上記画像は松井証券さんの通貨ペア別の相関係数です。
相関係数というのは平たく言えばどれくらい値動きが似通っているか、連動性があるかということです。
今回ご説明させていただいたAUD/JPYとNZD/JPYは私が赤で囲んである箇所です。
数値は0.88となっています。
相関係数というのは完全に相関しているもの、つまり完全に値動きが同じ、完全に連動していた場合は1.0になります。
逆相関の場合は-1になります。
相関と逆相関の違いですが、同じような値動きになるのが相関性の高い通貨、逆の値動きになるのが逆相関性の高い通貨です。
先ほどの画像でAUD/JPYとNZD/JPYは相関性の高い通貨ですから、AUD/JPYが上昇すればNZD/JPYも上昇をするということです。
しかし時にAUD/JPYが上昇をしているにも関わらず、NZD/JPYが上昇しない、あるいはどちらも上昇はしているけれどもAUD/JPYの方がぐんぐん上昇している。
こういう動きの違いが発生した時にサヤが生まれるわけです。そしてそのサヤという違いが出た時に一方を買い、一方を売りでエントリー。
いずれそのサヤは開いたり閉じたりするので、そのサヤは段々と狭まり、いずれ埋まるのでそこで決済ということです。
逆相関
ここからは逆相関についてですが、まず下記の松井証券さんの米ドルの通貨ペアをご覧下さい。
赤枠の箇所が-0.95となっています。
この通貨ペアはEUR/USD(ユーロドル)とUSD/CHF(ドルスイス)になります。
逆相関は先ほどと逆でどちらかが上昇をするとどちらかが下落するという性質を持っており逆相関性が高いとは、ユーロドルが上昇すればドルスイスが下落する割合が極めて高いということです。
画像を用いてご説明をさせていただきくと上記画像①が通常の動きでユーロドルが上昇をすればドルスイスは下落をします。
しかし時に②のようにユーロドルもドルスイスも共に上昇をしたり共に下降をするわけです。さらに③のようにユーロドルがぐーんと上昇をしてドルスイスも上昇はするんだけれどもわずかな上昇。
こういう通常の動きとは異なる時に一方を買いエントリー、一方を売りエントリーをしてサヤが閉じてきた利益確定となります。
相関性の高い通貨と逆相関性の高い通貨
先ほど相関性の高い通貨としてAUD/JPYとNZD/JPYをご紹介しましたが、その際の相関係数は0.88。逆相関性の高い通貨としてご紹介したEUR/USDとUSD/CHFは-0.95でした。
上記画像は先ほどの画像でEUR/USDとUSD/CHFが赤枠になりますが、その下の紫枠で囲ったGBP/USD(ポンドドル)とUSD/CHF(ドルスイス)は-0.60となっているので、あまり値動きが似ていない、つまり逆相関性が低い通貨ペアということになります。こういう通貨ペアではサヤ取りをしない方が良いということです。
相関係数は一定ではない
AUD/JPYとNZD/JPYの相関係数は0.88ですが、この相関係数は一定ではありません。今日は0.88だけれども明日は0.80という風に毎日変動します。さらに数年単位で言えば、相関性が高かったにも関わらず最近は相関性が薄れてきたなど、期間を長くすれば相関係数にも大きな変化が生まれる場合があります。逆も同じで相関性が低かったけれども、ここ最近は相関性が高くなってきた。という場合もあります。
当然ですよね。各国の経済状況や取り巻く環境は常に変化をしているわけですから5年、10年と期間が経過するにつれて国家間の差が生まれてくるのは当然でしょう。ただ相関係数は毎日違うと記載しましたが短い期間では相関係数は大きく変わることはありません。
仮に今日のAUD/JPYとNZD/JPYの相関係数が0.88で明日は0.20になるということはほぼありません。先ほどご紹介させていただいた松井証券さんの相関係数表は過去200営業日の相関係数です。つまり過去200日でどれくらい相関しているかを表したものです。
鞘トレードの誤解
さて、ここまではFXのサヤ取りについてどういうものか解説をさせていただきましたが、ここからはサヤ取りについて全く逆のことを述べます。まずサヤ取りは比較的安全な投資手法であると解説されている方もいらっしゃいますが、それは違います。
先ほどの画像をご覧ください。
こういう風に二つの通貨ペアでサヤが発生した時に画像の場合であればAUD/JPYのショートエントリー(売り)、NZD/JPYをロングエントリー(買い)を行うわけです。そうする事でAUD/JPYが下落をしてきて、NZD/JPYが上昇をしてくればサヤが閉じていくわけですから利益は増加していくわけです。
ただ反対にAUD/JPYが上昇をして、NZD/JPYが下落を続けていくとどうなるかと言えば損失が大きくなっていくわけですね。つまりこれはどういう事かと言いますと通貨ペアも様々ありますがFX業者の中にはAUD/NZDという通貨ペアでトレードができる会社もありますが、正にAUD/NZDの一つの通貨ペアをトレードしているのと理屈は同じになるのです。
もう少し具体的に申し上げますとAUD/JPYが下落、NZD/JPYが上昇することで利益が拡大していくという事はAUDよりNZDよりも強い場合に利益が拡大、NZDよりもAUDが強ければサヤが更に開いて損失が拡大するわけです。
上記画像はAUD/NZDの通貨ペアを思って下さい。この通貨ペアで上昇しているということは「AUD>NZD」の状態であり、下落するということは「AUD<NZD」になっているということです。
つまり下記画像において利益が拡大していくというのはAUD/NZDで言えば下落をしていくことで利益が拡大していくわけであり上昇をしていくということは「AUD>NZD」の状態になっているので損失が膨らんでいっているわけです。
勘の良い方であればお分かりかと思いますが、サヤ取りは二つの通貨ペアでエントリーをしているわけですが、実は一つの通貨ペアのエントリーと変わらないのです。要するに上記画像で言えばAUD/JPYとNZD/JPYの二通貨ペアでエントリーしているわけですがAUD/NZDの一つの通貨ペアでエントリーするのと変わらないわけです。
ただしAUD/JPY、NZD/JPYと二つの通貨ペアでエントリーする場合と、AUD/NZDの一つの通貨ペアでエントリーをする場合の違いはスプレッド【手数料)利益までの値幅、メンタル面など細かな事を挙げれば異なる点は出てきますで、どちらが良いとか安全などは簡単に申し上げられませんが、結局のところ二つの通貨ペアがサヤの閉じる方向に強くなる、或いは弱くなる事で利益が生まれるということです。
もちろんこれはAUD/NZDに限ったことではありません。EUR/GBPの通貨ペアも同じでEUR/USDとGBP/USDの二つの通貨ペアのサヤ取りをする行為はEUR/GBPの単独でのエントリーと変わらないということです。ですからサヤ取りは安全だとかサヤは必ず閉じるといった誤解されている方がいらっしゃいますが決してそうではありませんのでご注意下さいませ。